夏目漱石 「こゝろ」

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「〝朝、襖が開いていたら嫌でも「先生」は「K」の死体を拝むことになる。なかなかイカした目覚ましだ。というか、一生眠れないだろう(実際、「先生」は「K」の骸を前に強いショックを受けている。黒い光という表現は中二っぽくてすごくいい)〟…スガリ君、これ、夏目漱石作だからね?」  登の文章は淡々としているが、どこか滑稽だ。ふみは笑わないように口元に力を込める。  独り言が激しくなっているが気にしていられなかった。 「〝「K」は明らかに「先生」にトラウマを植え付けにかかっている。証拠は「先生」の遺書にこっそり書いてあるのだ。「K」の部屋から去る際、「襖に迸っている血潮を始めて見た」と言っている〟…どういうこと?」  ふみは訝しむような顔で原稿用紙をめくった。 「〝思い出して欲しい。その夜「先生」は襖に向かって眠っていたことを〟」  心臓を直に掴まれた。そんな錯覚がした。
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