夏目漱石 「こゝろ」

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 ふみは手元にこゝろの本が欲しくなった。登の言う通り、「K」が襖を開けたことを難解な文章から読み取ってみたくなったのだ。 「「こゝろ」って、そんな話だったの…?」  ふみの考える「こゝろ」の感想文は、もっと「先生」の視点によっている。友人である「K」の気持ちを知りながらも、抜け駆けをしてしまった後悔、「K」の死を目の当たりにした時の絶望。そう言ったものに、目が行くのだと思っていた。 「スガリ君は…違うんだ」  脳裏に登の顔がよぎる。  抑揚のない低い声で喋る少年は、いつもどこかぼうっとしている。ゲラゲラ笑わないし、声を荒げることもない。    学校中をパニックに陥れた「スガリ事件」だって、女子に泣かれなかったら涼しい顔で生はちのこを完食していたかもしれなかった。  肝の太い、掴み所のない生徒だと思っていた。  まさか、こんな探偵のような思考回路を持っているだなんて。 「〝だが、問題は開けたことではない〟」  登は原稿用紙にはっきりと書いている。 「〝閉めなかったことだ〟」  冒頭の問いかけだ。
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