夏目漱石 「こゝろ」

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「〝そして、襖は「いつも立て切ってあるKと私の室との仕切の襖」という「先生」の発言から普段は閉めていたことがわかる。〟…もっと引用すべきところがあるんじゃないかしら…」  よく読んでいると褒めるべきか、いや、そういう問題じゃないと突っ込むべきか。  若い家庭科教師は額に手を当てる。 「〝「先生」は夜半に目を覚ました。寝る前に閉めたはずの襖が「この間の晩と同じくらい開いて」いたからだ。幅は大きさは二尺(約60センチ)ほど開いているのだ。これは当時の襖の大きさの半分になる。誰が開けたのかは、推測までもないだろう〟」  もう一度登の書いた間取り図を見る。「先生」の部屋の襖は「K」の四畳間に繋がっている。  夜中、下宿部屋の襖を開けるのは、当然、部屋を借りている書生達二人だろう。「先生」はいつの間にか襖が開いていたので起きたのだ。  ふみは答えを口に出した。 「襖を開けたのはもう一人の書生…自殺した「K」」  襖を半分だけ開け、眠る親友の姿を見つめる男の姿が思い浮かぶ。なんだかミステリー小説の後半を読んでいるような気分になった。
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