第二部:秋冬の定まり。 歩みは変わらず・・2

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すると、確かに前日の防犯カメラの映像には、赤子の入ったと思われる菓子箱をロッカーに入れる不審な女性が居る。 その時刻は、昨夜の午後10時半過ぎ。 その記録された映像の時刻を見た飯田刑事は、 「まさか、・・正気か? あの赤子は、12時間近くもロッカーに居たのか?」 こう驚いた。 父親でもある彼は、娘と同じ女子の赤子が長時間の間ずっとロッカーの中と知って驚いたのだ。 ここで里谷刑事は、先ほどに軽く聞き込んだ或る情報を思い出し。 「そう云えば・・。 桜田門駅の構内は、夜中に一部が改装の為に工事中と成るみたい。 そいで、コインロッカーの中のものが紛失したら不味いから、ロッカーの入り口をシャッターで閉じてたみたいよ」 織田刑事は、母親の視点から。 「あの赤ちゃんは多分、夜中に起きて泣いたりしたのよ。 でも、工事の音やら朝の雑踏で分からないし、泣き疲れて寝ちゃったかもね」 この意見が出る最中でも、木葉刑事の眼はその置き去る女性に向かっていて。 「この人は・・赤ちゃんの母親ですかね」 其処に映るのは、見るからにホステス風の中年女性で。 サングラスにスカーフを頭に巻いた姿は、印象に残る様子で在る。 女性の様子を窺う篠田班長は、 「母親じゃないか」 と。 市村刑事も。 「映像の様子は、母親らしいぞ」 不審なその女性は、コインロッカーに赤ちゃんを預け入れる際、何処と無く託す様に紙袋を触ったり、祈り謝る仕草をするので、赤ちゃんを何かに委ね託して居ると云う雰囲気は伝わる。  然し、問題はその後に起こった。 遺棄した人物が解ったと、その後の行動を観て居たのだが。 或る映像の切れ間から、その人物の姿が消えたのだ。 「あら・・居ない」 画像を見ながら操作する八橋刑事は、何度も巻き戻して観るのだが。 「消えた」 と…。 「そんな馬鹿な」 市村刑事は、横からモニターに近付くも、確かに消えた。 「ん、本当だ」 飯田刑事は、各場所場所の映像データが入ったディスクがまだ他にも在るので。 「その時間に絞って、手分けしよう。 赤子が委棄されたのは、夜の10時38分だ。 その後、あの格好をした女性が何処に行ったのか、映像データを全て見れば解るかも知れない」 時計を見た木葉刑事は、まだ午後の4時半と知り。 「そうですね」 と、ディスクの一枚を取った。
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