第二部:秋冬の定まり。 歩みは変わらず・・2

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母親が連れて行かれた家の玄関先に在る、たった三段の無機質な階段。 其処に座った木葉刑事は、随分と秋めいて来た東風に吹かれながら、午前中の曇り空を見上げる。 少し高い塀に隠れられるので、煩い野次馬には見られない。 立正の警官二人は、黄色いテープの向こうに集まる人々の警戒へと消えた。 さて、それから数分して。 何時の間にか、木葉刑事の脇に男児が座る。 「刑事さん。 お母さん・・行っちゃったの?」 気丈にも涙を堪える男児は、静かに問う。 父親と母親の喧嘩を毎日聴いていたのは、唯一この男児で在る。 在りがちな話だが、さりとて当事者には堪ったものでは無い。 空を見る木葉刑事は、そのまま見詰めながら。 「お母さん、きっと悩み過ぎたんだよ。 お父さんが、いい加減だったから…」 すると、そのことを男児は理解していたのだろう。 「うん・・。 お父さんは、お母さんをいつも泣かせてたから…」 そんな彼の話を聴く木葉刑事は、自分の幼少時を想い出しながら。 「お母さんは、君とは長く逢えなくなる。 可哀想だけど、やってはいけないこと・・やってしまったから」 すると、男児は淀みなく頷く。 「お母さん・・お父さんを、ころしちゃったんでしょ?」 この男児は、何処か大人びている。 親の所為か、物分かりが早い。 木葉刑事には、過去の幼い自分と重なる様で辛かった。 だが…。 「・・そうだね。 安心が出来なくて、辛くて、・・だから間違いをしたんだ」 「・・・お母さん、帰って来る?」 「それは、大丈夫だよ。 遠い先だけど、帰って来る」 「僕、何処に行けばいいの?」 「お祖父さんか、お祖母さんの所に成るかも…」 「そっか…」 力無く返した男児を、木葉刑事はゆっくりとした動きで見ると。 「電話は、もうしたんだ。 でも、来るのは夕方に成ると思う。 それまで、別の場所に居て貰うか。 此処で、待って貰う事に成るね」 男児は、木葉刑事の前に来て。 「此処がいい…」 涙堪えられずに涙を流した男児に、木葉刑事は無言で頷き応えた。 本部に連絡を入れて、一緒に待つ事にする。 手柄を捨てた木葉刑事は、男児と待つ事にした。 嘗ては、自分が微かに淡い期待を持って、突然消えた母親を待っていた子供心を蘇らせて…。
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