4人が本棚に入れています
本棚に追加
その後、保護をする予定だった施設の職員が来ても、木葉刑事は理由を説明して待った。
そして、夕方を前にして、急いで来た父方の祖父母がやって来た。 事情を話すと、息子の酒狂いを嘆いて、孫をしっかり面倒見て行くと云う。 母方の両親は、既に施設へ入って居た。 母親が凶行に及んだのは、その心配も有るからだと・・この祖父母は理解してくれた。
男児を祖父母の二人に任せた木葉刑事は、男児に。
「実は、俺も小さい頃に御母さんと離別しててさ。 君の気持ちは、少しだけ解る。 辛いけど、君の人生は君のものだからね。 前に、ゆっくりと歩いて行って。 人生を諦めたらダメだよ」
木葉刑事がこんなことを云うのも珍しい。 だが、その手を握る男児の眼は、木葉刑事の眼を見ていた。 似た境遇に至るこの二人には、何か不思議と通じるものが在ったのか・・。
さて、夜の帳が空を八割がた覆った頃。 一人で捜査本部に戻って来た木葉刑事は、待って居た一課長に報告した。
話を聴いた一課長は、無情な事態に厳しい顔をして。
「物分かりが良いなら良いなりに、悪いなら悪いなりに、親のとばっちりを食らう子供は苦労する。 だが、祖父母が受け入れてくれたのは、良かったな」
我が儘をさせて貰った手前、深く頭を下げる木葉刑事で在り。
「ガサ入れを止めさせた上、向こうに残りました身勝手、誠に申し訳ありません」
「お前の場合は、それも仕方ないさ。 前回は、被疑者が罵倒に泣いて大変だったが。 今回は今回で、良くやった」
「はい」
「一応、母親の取り調べは順調だ。 後は、送検までもう一仕事を頼む」
再度一礼した木葉刑事は、他の所轄の刑事がひそひそと噂する中、一人で署内へと。 向かう先は、留置場。 母親に子供の事を説明して、心配を少しだけ軽くした。
里谷刑事と刑事部長と一課長は、木葉刑事の生い立ちを聴いて知っていた。 刑事部長は、母親の失踪と死の真実まで聴いて居る。 木葉刑事は、周りに事実を言わないから、知らない者は格好付けて居ると言う。
一方、手柄を貰った形の里谷刑事と飯田刑事だが、その喜びなど無く。 送検までの数日間、笑顔は終始なかった。 こんな事件の手柄など、二人からしたら要らないのだが。 木葉刑事の手柄を、自分たちも気に入らない刑事に渡すのも癪でしかない。 所轄の刑事が二人を持ち上げても、二人は異常に淡泊だった。
最初のコメントを投稿しよう!