第二部:秋冬の定まり。 歩みは変わらず・・2

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生来の面構えが怖い望月主任だが。 今日は、どことなくその刑事としての気構えと云うか、気迫が削がれて居る様子にて。 「たった今、刑事部長が篠田班の召集を俺に命じた。 皆、捜査本部の立つ第三会議室に移動してくれ」 特別捜査本部を指揮する刑事部長が自ら指令と知る一同は、食べるのを止めて移動の準備をするが。 その異例な事に、市村刑事が流れの中で則った間合いにて。 「望月さん、現場は?」 すると、やはり雰囲気が違う望月主任は、今回の言伝すら面倒そうな顔をし。 「とにかく、会議室に行けば解る」 云い捨てるまま廊下に向かい。 そして、廊下に出る前に。 「一課の関わる様な事件とは、俺には思えん」 と、先にドアを閉めて去った。 里谷刑事は、お茶を呷った後にて。 「ハァ? ナニそれ」 望月主任の様子を見た八橋刑事は、 「あの様子だと、一課長と望月主任は・・タッチしてない事みたいですね」 感じたままの意見を言った。 だが、騒ぎ好きの如月刑事は、 「行ってみれば解る解るっ」 と、野次馬根性丸出しで動いて行く。 然し、今回の事件は、ちょっと皆の予想を超える様相を呈して行く。 何故ならば…。 「うぎぁーっ、うぎぁーっ」 会議室へと間近に迫ろうと廊下を行く篠田班全員の耳に、何故か赤子の声が聞こえて来るではないか。 先頭を行く如月刑事は、 「あら、〔警視庁〕《ウチ》で、誰か産休に入ってたか?」 と、言うと…。 後を追ってきた里谷刑事は眉間にシワを寄せて。 「出産したからって、捜査会議室に赤ちゃんを連れて来る人、居るの?」 常識的にカタい事を言う。 飯田刑事は常識の範疇からして、 “それは無い” と思いたかったが…。 全員が第三会議室に入ると、赤子の泣き声は更に大きく近くに聞こえて来て。 如月刑事をかわして先頭で入った篠田班長が、赤子の声がする方に居る数名の警察職員を見て。 「おーい、何事だぁ?」 と、声を掛ければ。 振り返るのは、庶務課の事務に居る女性職員三人と、白いバスタオルにくるまれた赤子を抱える郷田管理官。 「い゛ぇっ?!!」 篠田班長を含めた篠田班総勢8名が、その光景を見て驚き固まった。 一応、バツイチの郷田管理官で、今はまだ独身と云う事だが…。 固まった8名を見返す郷田管理官は、そのぽっちゃり体型に備わる見た目は‘おっとり顔’を、見る見るうちに訝しい表情へと変貌させると。
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