第四話 お刺身

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 ナターシャは度々、不思議な夢を見ることがあった。それは神話の一場面や、神話や吟遊詩人の歌う語りにすらなっていないような風景の一場面などだった。そんな夢を見るたびに、ナターシャは「これは〈ゲオルグ〉が昔語りをしてくれているのだ」と思っては、銃に頬を寄せ、グリップの彫刻にキスを落とした。  その〈ゲオルグの昔語り〉のひとつに、このような内容のものがあった。  太古の昔、この世界には存在しない種族の数名が一時的に、この世界の神域に匿われていたという。その種族は〈ヒューマン〉といい、こちらの世界と対になる世界からやってきたそうだ。  ヒューマンのいる世界とこちらの世界は陰と陽の関係とでもいえばよいのか、まるで正反対の世界だという。こちらの世界にはエルフやオーク、コボルトなど様々な〈人〉が存在するが、ヒューマンの世界にはヒューマンしか〈人〉は存在しない。こちらの世界ではマナやエーテルが世界中に満ちており魔法が活発であるが、ヒューマンの世界ではマナやエーテルは乏しく、こちらでいうところの〈魔法〉はほとんど使用されていない。代わりに、こちらでは発展の乏しい〈科学〉という魔法が主流なのだそうだ。  しかし、ヒューマンの中にもマナやエーテルの扱いに長け、こちらの世界の〈魔法〉を使用できる者が少なからずいた。その者達は仲間であるはずの他のヒューマンから奇異の目で見られ、迫害を受けていたという。行き過ぎた迫害が、生きたまま磔にし火をつけるという凄惨な事件へと発展することもしばしばで、心を痛めた神が彼らを神域にて匿われたのだそうだ。
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