ピンクのカサのノスタルジア

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 先生がホイッスルを吹いて、ドッジボールの試合がはじまった。  けいた君が、外野から赤チームのコートに向かって、ボールを投げる。  うわっ! けいた君のボールって、やっぱり怖いっ !!  スピンのかかったボールが、ギュンとあたしの前に飛んでくる。  ぶ、ぶつかる~っ !!  頭を抱えてちぢこまったとき、あたしの前に色白の腕がのびた。  ……あれ? 痛くない。  顔をあげると、あたしの前に、「なかじょう」ってゼッケンのついた体育着の背中が、立ちはだかっていた。  中条君の帽子の色は赤。あたしに背を向けて、ボールを右手で受けとめている。  そのまま、重心を前に倒して、白チームのコートにボールを投げた。  は……速いっ!  野球のピッチャーが投げた球みたい!  ボールは白チームのコートの中にいた、リンちゃんの背中にあたって落っこちた。 「ひとり!」  中条君が片口をあげて笑った。  けいた君が、むっとした顔になる。  白チームの内野からパスをもらって、けいた君が中条君にボールを投げつける。  それを中条君は、わざわざ正面から受けとめに行った。  ボールを手にした瞬間、体をひねって、すかさず白チームのコートに投げる。  ボールは、えみりちゃんのお尻にあたった。 「ふたり」  また、中条君はひやりと冷たい笑顔。  す、すご……。  けいた君が、中条君にあてようとしたボールを、中条君はぜんぶ軽々と受けとめた。  そうして、白チームの内野に投げつける。白チームのコートは、あっという間に空っぽ。 「――はい。終了」  中条君はすずしい顔をして、ボールを指先でくるくるとまわしている。 「葉児、かっけ~」  誠があははと笑った。  赤チームのコートの中には九人全員のこっていて。白チームのコートはゼロで、赤チームの勝ち。  けいた君は、真っ青なおでこで、口をパックンと開いたまんま。 「おい、大岩。こっちが勝ったんだからな。きょうからは、オレが王様だっ!」  けいた君を見すえて、中条君は胸をそらせた。 「王様の命令だっ! 元保育園と元幼稚園で分けるの禁止!」
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