34人が本棚に入れています
本棚に追加
「綾ちゃん、これから、うちに遊びに来ない?」
放課後。あたしがランドセルを背負っていると、有香ちゃんがあたしの席までやってきた。
「真央も来るって。綾ちゃんは、シルバニアとリカちゃん、どっちが好き?」
「あ、あたし、シルバニア!」
「ホントっ!? わたしも~。綾ちゃんもお気に入りのお人形あったら、持ってきてね」
「うん! ウサギさん持っていくっ!! 」
「綾ちゃん」って呼ばれるたびに、胸がなんだかくすぐったい。
小学校に入ってはじめての、友だちっ!
体育の時間が終わったとたん、男子たちはワッと中条君の席にあつまっていった。もう、幼稚園の子も保育園の子も入り交じって、笑ったり、じゃれあったりしていた。
リンちゃんたちの女子グループも、保育園の女子たちと話しはじめたみたい。
有香ちゃんと真央ちゃんと三人で、おしゃべりしながら昇降口におりると、カサ立ての前に、中条君が立っていた。
「和泉さん。これ……ありがとう……」
琥珀色のまつ毛をふせて、中条君がつぶやく。
怒ってるみたいに口をとがらせて、こっちにさしだしてきたのは、きのう、あたしが貸したカサ。
「あ……ううん」
ピンクのカサを受け取ってから、あたしは「あ……あのっ!」と顔をあげた。
「あたしのカサのせいで、けいた君にイヤなこと言われちゃって、ごめんね」
「え? あ~……えっと」
中条君は後ろ頭をかいた。
「あいつなら、体育のときにこてんぱんにしてやったから、もう気がすんだ」
って。
ニヤっとゆがんだ口元。冷たくて、けいた君以上に怖いんだけどっ!
「……でも。きのう、ぬれないで助かったのは、和泉さんのおかげだよ……」
最初のコメントを投稿しよう!