ピンクのカサのノスタルジア

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「綾ちゃん、これから、うちに遊びに来ない?」  放課後。あたしがランドセルを背負っていると、有香ちゃんがあたしの席までやってきた。 「真央も来るって。綾ちゃんは、シルバニアとリカちゃん、どっちが好き?」 「あ、あたし、シルバニア!」 「ホントっ!?  わたしも~。綾ちゃんもお気に入りのお人形あったら、持ってきてね」 「うん! ウサギさん持っていくっ!! 」 「綾ちゃん」って呼ばれるたびに、胸がなんだかくすぐったい。  小学校に入ってはじめての、友だちっ!  体育の時間が終わったとたん、男子たちはワッと中条君の席にあつまっていった。もう、幼稚園の子も保育園の子も入り交じって、笑ったり、じゃれあったりしていた。  リンちゃんたちの女子グループも、保育園の女子たちと話しはじめたみたい。  有香ちゃんと真央ちゃんと三人で、おしゃべりしながら昇降口におりると、カサ立ての前に、中条君が立っていた。 「和泉さん。これ……ありがとう……」  琥珀色のまつ毛をふせて、中条君がつぶやく。  怒ってるみたいに口をとがらせて、こっちにさしだしてきたのは、きのう、あたしが貸したカサ。 「あ……ううん」  ピンクのカサを受け取ってから、あたしは「あ……あのっ!」と顔をあげた。 「あたしのカサのせいで、けいた君にイヤなこと言われちゃって、ごめんね」 「え? あ~……えっと」  中条君は後ろ頭をかいた。 「あいつなら、体育のときにこてんぱんにしてやったから、もう気がすんだ」  って。  ニヤっとゆがんだ口元。冷たくて、けいた君以上に怖いんだけどっ! 「……でも。きのう、ぬれないで助かったのは、和泉さんのおかげだよ……」
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