ピンクのカサのノスタルジア

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「ごにゅうがくおめでとうございます」  黒板に大きく書かれている。  一階の窓から見わたすと、校庭は桜ふぶき。散った桜で、鉄棒の下がピンク色の池みたい。  ここが小学校。  幼稚園の先生が「一年生になったら、おにいさん、おねえさんになるんだよ」って、言っていた場所。  教室には、ひとり、ひとつぶんのイスとつくえが、キレイにならんでいて。  そこに座っている十二人は、あたしもよく知っている、花田(はなだ)幼稚園の子たち。  で、のこりの十人が、ぜんぜん知らない花田保育園の子たち。  みんな新品のブレザーを着て。ロボットみたいにカチンコチンにかたまってる。  教室の後ろでは、ママたちがスーツ姿で、子どもたちのようすを見守ってる。 「じゃあ、先生が名前を読んだら、返事をして立ちあがってください」  白のブレザーに白のスカートをはいた、林先生が言った。  はじっこから、ひとりずつ、名前を呼ばれていく。 「大岩(おおいわ)圭汰(けいた)君」  あたしのななめ前の席で、けいた君が「はい」って、どら声をあげて立ちあがった。  けいた君は、幼稚園の年長さんで一番背が大きくて、手足も太かった。お 腹だって、どんってとびだしてる。  それに、年長さんで一番、すもうが強かった。かけっこも一番速かった。ドッジボールだと、びゅんびゅんボールを投げてきて、どんどん敵をコートの外に出していた。  だけどあまりにも強いから、あたしみたいなのろまなチビは、ぶつかったら転ばされちゃいそうで、そばに寄るのがちょっと怖い。 「中条(なかじょう)葉児(ようじ)君」 「……はい」  立ちあがった男の子をふり返って、あたしはドキッとした。  幼稚園の子たちは、みんなドキッとしたと思う。  だって、その子の髪は琥珀(こはく)色。ほっぺたの色もみんなより白くって、目の色も、まわりの子たちとはちがう。  髪とおそろいの琥珀色。遊園地の宝石すくいで手に入れた琥珀の石を、そのまま目にはめ込んだみたい。 「ハーフかしらね」  後ろから、お母さんたちのひそひそ声がきこえてきた。  その子は、怒ったみたいにくちびるを引きしめて、また自分のイスに座った。
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