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ぎくしゃく教室を歩いて、黒板の前まで行く。
「あ……あの……誠……。久しぶり~」
頭のてっぺんで、アホ毛をゆらして、あたしは「へら」っと笑った。
黒板で落書きしていた手をとめて、誠がふり返る。
ついでに、琥珀色の髪の子まで、ふり返る。
この子もやせっぽち。身長は誠よりは高いけど、クラスの真ん中辺かな? 目がぱっちりしていて、鼻筋が通っていて、あごがふんわりしてるから、キレイな女の子みたい。
ぽやっと見とれていたら、その子が誠に声をかけた。
「誠? 知ってる人?」
「ん~と。和泉さん。幼稚園のときにいっしょだったんだ」
ズキっと心臓が痛くなった。
昔は「あやたん」って呼んでくれたのに……。
「へぇ~」
琥珀色の髪の子は、あたしのアホ毛からうわばきまで見おろしている。
「あ~っ! 裏切者がいる~っ!!」
後ろから、どら声がふってきた。
ふり返ったら、けいた君があたしを指さして、歯ぐきをむきだしていた。
「和泉綾は、花田幼稚園の裏切り者だ~っ! 花田幼稚園の仲間たちは、えいえんにふめつなんだぞ~っ!! いつでもひとつ、なんだから、勝手に別の子たちと仲良くなったらいけないんだぞ~っ!! 」
え~っ !? なんでぇ~?
たしかに、卒園式のときに年長クラスの高橋先生から言われたんだ。
「卒園しても、花田幼稚園の仲間たちは、永遠に不滅ですよ! 自分には仲間たちがいること、いつでもわすれないでね!」って。
だけど、先生は「別の子と仲良くなったらダメ」なんて、言わなかったよ?
言い返したいけど、言い返せない。だって、けいた君が本気で怒ったら、あたしなんか、かんたんに押し倒せちゃう。
「誠、さっきの絵描き歌の続き、教えろよ」
琥珀色の髪の男の子が、誠のわきをつついた。
「オッケー。まるかいて~」
誠はもう、あたしを無視して、その子とまた、黒板にらくがきをはじめちゃう。
あたしはぽつんと立ちつくした。
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