ピンクのカサのノスタルジア

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「……そっか。じゃ。ありがと」  あたしが開いたカサの右横に、琥珀色の頭がすっと入った。  ちっぽけなあたしより、中条君の背のほうがずっと高い。両手をばんざいにしてカサを持ちあげていないと、中条君のつむじにカサが引っかかっちゃう。 「……カサ、オレが持とうか?」 「ん~。いい~。あたしのカサだから~」  うまく支えきれなくて、頭の上でふらりふらりとゆれるカサ。耳横から雨の音。  中条君は、両手で自分のランドセルの取っ手をにぎりしめて、スニーカーの足元を見つめて歩いた。口をぎゅっと引きむすんで、白いほっぺたはカチコチでかたそう。  校門を抜けると、赤い大きなカサが近づいてきた。 「綾っ!!  ああ、よかった。まだ帰ってなかったのね。迎えに来たわよ。帰りましょう」 「ママっ!」  ママは、あたしのとなりを歩いている男の子を見て、桜色のくちびるでほほえんだ。 「こんにちは。綾と同じクラスの子よね。名前はえっと……」 「……中条葉児です」  つぶやいたかと思うと、中条君は、パッと雨の中にかけだした。 「じゃあねっ!」  背中のランドセルがカタカタとゆれる。琥珀 色の髪が、あっという間に雨でぬれていく。 「ま、待ってっ! これ、つかって!」  あたしは追いかけていって、ピンク色のカサを相手の頭にさしかけた。 「……え? でも……」 「あたしは、ママのカサに入れてもらえるから。はいっ!」  カサの柄をぐいっと、中条君の手のひらにつきつける。 「あ……ありがとう……」  中条君は口をとがらせてつぶやいて、カサをさして、また走り出した。
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