ピンクのカサのノスタルジア

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「な~? なんで、中条だけは、髪の毛染めていいんだよ~?」  教室の自分のつくえに、でんっとお尻をのっけて、けいた君が腕を組んでいる。 「だって、ズルくね~? ふつうは先生に怒られるんだぞ~? 髪の毛染めてるヤツって、ヤンキーって言うんだろ~? 先生が元保育園の子だけ、ひいきしてる~」  う~……こわい~……。  けいた君は、体が大きいから迫力がある。するどい目でにらみつけられると、体がきゅっとちぢこまっちゃう。  きのうの雨はカラッとあがって、今朝はまた、ぽかぽか日和。  休み時間だから、ほかの子たちは、元幼稚園同士と元保育園同士にわかれて、教室のあちこちでおしゃべりしている。  なのに、あたしはやっぱり、たったひとりで自分の席。  あたしはそっと、黒板の前を見た。  中条君が誠といっしょに、けいた君をふり返っていた。  冷たい琥珀色の目。口元もしらっとしてて、けいた君の威嚇なんて、痛くもかゆくもないみたい。 「……これ、うまれつきだけど。オレのお父さん、イギリス人だから」 「へぇ~。中条って外人なんだ~。だったら、名前も外人らしく、『トム』とか『ダニエル』とかにすれば~?」 「お母さんが日本人だから、ヤダ」  そうしたらけいた君は、うれしそうにふんぞり返った。 「なんだこいつ、へんなヤツ~。外人なのか日本人なのか、はっきりしろ~」  中条君の眉がきゅっとひそまった。 「そういや、こいつ、きょう、女もんのカサ持って、学校に来てたぞ! こいつ、ヤンキーで外人で日本人で、しかも、女なんだ~っ!! 」  男子も女子もざわつきながら、けいた君と中条君を見ている。  ……どうしよう……。  そのカサって、きのうあたしが貸した……。  言わなきゃいけないのに、口から声が出てこない。  だって、わけを話したら、あたしがけいた君の命令を無視して、中条君としゃべったことがバレちゃう。
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