ピンクのカサのノスタルジア

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 三時間目は体育。  林先生が、校庭にライン引きで、ドッジボールのコートを書いている。 「せんせ~い! 元幼稚園組対、元保育園組でやりた~いっ!! 」  けいた君が手をあげた。 「そう? じゃあ、きょうは特別に、そうしましょうか? はい、元花田幼稚園さんは先生の右に集合! 元花田保育園さんは先生の左にならんで」  みんなパラパラとかけてきて、先生の前に、幼稚園の子と保育園の子で分かれて、整列。 「ああ。元幼稚園さんのほうが、保育園さんよりもふたり多いのね。じゃあ、じゃんけんにしましょう。負けた子がひとり、元保育園さんのほうのチームに入って」  だけど、けいた君はすぐに、あたしの背中を押した。 「裏切者は敵のチームだ!」 「……え?」 「おまえ、こないだ、幼稚園のヤツらと仲良くなろうとしただろ? だから、敵!」  そんなぁ~。  目に涙がたまってくる。  リンちゃんをさがしたら、コートの中でえみりちゃんや、めいちゃんとおしゃべりに夢中になっていた。あたしのことなんて、見てもくれない。  あたしはすごすごと、反対側のコートに歩いて行った。  元保育園チームの子たちの帽子は赤。あたしも赤白帽子を赤に直す。 「えっと……和泉さん、だったっけ?」  横から声がして、あたしは顔をあげた。  赤チームのコートの中で、黒縁メガネをかけた女の子が笑っていた。ふたつにわけて胸の前にたらした長い髪。背筋がしゃんとのびていて、手足がすらっと長い。 「……うん。あたし、和泉綾」 「わたしは、永井(ながい)有香(ありか)。でね、こっちが河瀬(かわせ)真央(まお)」  そうしたら、永井さんの後ろで、ちょっとぽっちゃりした女の子が、「へへへ」っと頭をかいた。 「真央です。よろしく~」  ポーズが男の子みたい。ショートボブの髪の毛が、ふわふわしてて、やわらかそう。  あれ……? 「ね、ねぇ、いいの? 元幼稚園のあたしとしゃべったりなんかして」 「そんなの、あの大岩君が勝手に言ってるだけじゃん。うちらは、うちらだよ」 「和泉さん、いっしょにがんばろ~っ!」  にっこり笑う、黒縁メガネの奥の切れ長の目。 「うんっ!」  スゴイっ !!  人と話せるだけで、心って、こんなにぽかぽかになるんだ!
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