第1章 村

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少したった頃に爺さんと婆さんは帰って来た。えっちらおっちら桶に水をなみなみに入れて。それを持ち上げて、釜の中にたっぷりと注ぎ、残った水はそばに置いてある水瓶に入れる。桶はその横に逆さにして置く。釜は暖められていたので、すぐ水も温かくなるだろう。沸騰したら、干した魚を放り込み、菜っ葉やら、芋などを入れる。最後に塩を少しだけ入れて味を調えれば、今日1日のおかずが出来上がる。塩は貴重な物なので入れすぎてはいけない。 まあまあ今日は美味しく出来た。干し魚の入れる量を間違えると生臭くなってしまうが、丁度いいと言える量だったようだ。ヘタパンを浸してもちゃもちゃと食べる。 「まあ、今日は上手く出来たんじゃないか。」 からからと爺さんは笑い、婆さんはほほえみながらうなずく。干し魚がだしとして野菜などに染み渡り、ほっとする美味しさがする。 その間にも雨はさあさあと降り注ぎ、止む気配はない。この位の雨ならば、山菜なども採ることができるだろう。小さな畑には何もしなくてもよさそうだ。食べ終え、立ち上がる。婆さんは木の食器を片付け、爺さんは藁で作りかけの草履を編み初める。行ってくると手を振り、戸の代わりにかけてある麻布をめくり、外にでる。雨は小降りだが冷たく、寒さを感じる。人気はほとんどなく、皆家にいるのだろうか。沢を挟んだ森は行ってはならないと言われている。なので、すぐ横の森に行く。
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