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雨が降っていても花は咲いていた。採りすぎないように気をつけながら、茸やら、わらびなどを採る。ウグイスや雀の鳴き声が森の中に響き、森の奥の方には鹿が歩いていくのが見える。雨は霧のように辺りを白くぼやかし、幻想的な美しさをかもし出す。
ざくざくと落ち葉を踏みしめる音に気が付いた鹿はこちらをじっと見つめる。鹿の角はなかなかに立派で、長生きしている雄だと分かる。水玉が毛皮を飾るようにかかっている。
しばらく見つめあった後、ふいと顔を反らして鹿は軽やかに走り去っていった。手に沢山に摘んだ山菜を持ち、走るように山を下る。滑りやすくなっているが、逆に歩く方が危ないだろう。この頃には雨も小降りになり、ちらほらと村人も外に出ている。
挨拶の代わりに通りすがりの村人に手を振り、家に帰る。爺さんの作っていた草履は幾つも出来上がり、自分たちが食べるだけの山菜を釜の横に置き、残りの山菜と草履を篭に入れて村の広場に向かう。もうかなり賑わい、それぞれ簡単な小屋を建て、魚やら、鹿肉やらを並べている。干し魚が切れていたはずだ。
「おう、そこの藁のじっちゃんと黒の坊や、その筍と鹿肉の良い所交換しねえか。うちの母ちゃんがな、筍を食いてえって言うんださ。」
猟師のおっちゃんが笹の葉に包まれた肉を見せびらかして言う。それは嬉しい。肉はしばらく食べていないので、つい、爺さんを期待を込めた目で見詰めてしまう。
「わかった、わかった。久しぶりにうんめぇもん食うか。」
「お、じゃあ、筍十本でどうだ?」
「いんや、それじゃちと採りすぎじゃあねえか。五本だ。」
「八本。」
「七本。」
「六本!これ以上は譲れねえ!」
「わかった。んじゃ、またな。」
「おう、まいど!」
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