インソムニア 2

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 胃に溜まった麦茶効果で、身体の芯から冷えていくのを感じた。寝られそうな気分。広大な海にたゆたっている気分だ。俺はゆっくり眼を閉じた。その瞬間、携帯がぶるっと震えた。  俺の冷たい頭に、熱い血がどっと濁流のように流れこんだ。  だれだ、こんな時間に連絡してくる馬鹿は。赦せん、赦せんぞ。  同年代、あるいは後輩ならば血祭りにあげようと決意して、携帯をタップする。だが怒りは興奮へと変わった。 “ 私です。こんな時間に申し訳ありません。  一つ、明日のことで伝え忘れていたことがありました。もうすでにインターネット販売でチケットは購入してあります。明日映画館で発券することになります。気が利く先輩のことです、前もって券を購入されるといけないなと思い、こんな時間にも関わらず連絡させていただきました。起こしてしまったのなら申し訳ありません。夜分遅く失礼しました。  PS.私は楽しみのあまり、ドキドキして眠れないくらいです。先輩もそうだったらいいなぁ”  俺の課の四十代前半の女係長が、彼女のことをぶりっ子だと称したことがあった。 「彼女は男に色目を使うから、あんた、騙されないように気を付けなさいよ」  課の親睦会の酒の席で心配されたのだ。  だが仮に、上司の言うことが正しく、このメールや彼女の普段の態度がすべて演技で、本心はどす黒く汚れているとしても、やはり俺は彼女に恋をしただろう。     
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