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胃に溜まった麦茶効果で、身体の芯から冷えていくのを感じた。寝られそうな気分。広大な海にたゆたっている気分だ。俺はゆっくり眼を閉じた。その瞬間、携帯がぶるっと震えた。
俺の冷たい頭に、熱い血がどっと濁流のように流れこんだ。
だれだ、こんな時間に連絡してくる馬鹿は。赦せん、赦せんぞ。
同年代、あるいは後輩ならば血祭りにあげようと決意して、携帯をタップする。だが怒りは興奮へと変わった。
“ 私です。こんな時間に申し訳ありません。
一つ、明日のことで伝え忘れていたことがありました。もうすでにインターネット販売でチケットは購入してあります。明日映画館で発券することになります。気が利く先輩のことです、前もって券を購入されるといけないなと思い、こんな時間にも関わらず連絡させていただきました。起こしてしまったのなら申し訳ありません。夜分遅く失礼しました。
PS.私は楽しみのあまり、ドキドキして眠れないくらいです。先輩もそうだったらいいなぁ”
俺の課の四十代前半の女係長が、彼女のことをぶりっ子だと称したことがあった。
「彼女は男に色目を使うから、あんた、騙されないように気を付けなさいよ」
課の親睦会の酒の席で心配されたのだ。
だが仮に、上司の言うことが正しく、このメールや彼女の普段の態度がすべて演技で、本心はどす黒く汚れているとしても、やはり俺は彼女に恋をしただろう。
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