インソムニア 2

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 だがその努力も虚しく、活字を追っても上滑りし、川のせせらぎや野鳥も騒音にしか聞こえない。時計は三時を回る。  まずい、まずい、まずい。  ついに俺は、これだけはすまいと決めていた禁断のパソコンを立ち上げ、眠れないときの対処法を教えてくれるサイトを巡っていく。携帯のブルーライトで十五分眠れないというのなら、パソコンの光はいかほど効力が増強するのか。それは分かっていたがすがるものが欲しかった。藁をも掴む想いだった。  ぐっすり眠るには『頭寒足熱』がいいらしいと知った。文字通り、頭を冷たくして、足を温めたほうがいいということだ。なるほど、俺は筋トレによって頭を温め、冷房で足を冷やしてしまった。通りで眠れないわけだ。  俺は洋服箪笥から靴下を引っ張りだして履く。頭はそうだなぁと考え、保冷剤をハンドタオルに包んで首元に当ててみた。テニスで日焼けしたときみたいだなと懐かしくなり、学生の想い出つながりで、そういえば大学の天文部の旧友が、家庭用プラネタリウムを見上げているといつのまにか眠ってしまうと言っていたことを思い出す。  すのこが敷いてあるベランダで、夜空を見上げてみる。ベランダに吹く夜風は冷たく、頭を冷やすにはうってつけだ。     
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