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足元がおぼつかなかったが、なんとか発券機を目印に進んだ。彼女は携帯で予約番号を確認する。発券が終わったら、これから公開予定の映画を掲載した無料パンフレットを見て回った。彼女はやはり映画が好きなのか、この監督の作風が好きとか、この俳優さんの演技はすごいなどと分かりやすく教えてくれる。だが俺に楽しむ余裕はなかった。
眠い。
その想いが、楽しいはずのデートを台無しにしていた。彼女が笑いかけてくれるが、俺は相づちに必死で、なにひとつうまくいかない。なんとなく気まずい雰囲気になり、ポップコーンやらドリンクの売店前で立ち止まる。
「なにか食べるか」
起死回生の一手として話しかけてみた。
「遠慮しておきます。私、映画には集中したいタイプなんです。飲んだり食べたりしちゃうと気が散っちゃって」
「そうか」
必死に紡いだ会話も続かない。
「お手洗いに行ってきますね」
彼女がお手洗いの角に消えてから、俺は頭を抱える。次の映画を待つ人たちがテラス席に座っていた。男子高校生らしき三人組のジロジロとした視線とヒソヒソ話が視界に映る。
だがもはやどうでもよかった。
彼女がお手洗いから帰ってきたと同時に、係員は閉めていたゲートを開けた。
「十時半の映画観賞の方は、三番シネマへとお進みください」
俺たちは列の最後尾に並んだ。長蛇の列とはいかないが、かなりたくさんの人が並んでいる。
「楽しみですね」
「ああ、そうだな」
ゲートをくぐる際に、女の係員がチケットを確認してにっこりと営業用スマイルで言う。
「三番シネマです。楽しんでくださいね」
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