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いつ誘おうか、いつ言おうか。虎視眈々とタイミングを見計らっていた俺は、ずっと温めていた言葉を切り出した。
「いいですね。先輩の驕りですか」
「お前も頑張ったからな。よっしゃ、いっちょ奢ってやるよ」
内心では心臓が飛び出そうなくらいだったが、さも慣れていますよと手に持っていたバインダーで頭をぽんぽんする。反応が怖かったが、彼女は嫌がるふうもなく、小動物みたいに笑っていた。口角と目尻が重なろうとするように近づく。俺の鼓動はむやみに高鳴る。
「あの、私、ちょうど見たい映画があるんです。先輩も一緒にどうですか」
「え、映画だって。そ、それはいいな」
もしも暇なら、夕飯だけとは言わず、一緒にどこかに出掛けないか。
喉まで出掛かっていた言葉を前に、まさかの彼女からの提案。俺は平静を装うのがやっとだ。
「どんな映画なんだ」
「それがですね。感動系なんです」
彼女が嬉々として話してくれたのが、まさにさっき流れたCMの映画だ。たしか原作が小説で、書店には『何十万部突破』を謳った帯で平置きされていて、駅の広告でも大々的にPRしていた。
彼女の話によると、その映画のタイアップ主題歌は、彼女のお気に入りバンドがその映画のためだけに書き下ろした新曲らしく、是非とも映画で堪能したいとのことだった。
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