インソムニア 2

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 彼女との待ちあわせの十時だから、さっき携帯で見た時間を引く。それが彼女に会うまでに使える時間。そこから準備と移動の時間を引いた、残りの時間が睡眠時間だ。  人間が良い睡眠だと感じるのは九十分周期らしい。その見地でいくと一時間半、三時間、四時間半、六時間、七時間半が候補に挙がることになる。つまりは。  すぐ数式や理詰めで物事を判断しようとするのは、理系の悪い癖だ。俺は咳払いし、頭を空っぽにすることに集中する。  経験的に分かっていることがある。  俺は睡眠時間がすくないと面白い冗談が浮かばなくなり、無口になる傾向がある。彼女との初めてのデートで、それだけは避けたかった。  だが眠れる気がしないのも事実。寝る前の呼吸は鼻呼吸か口呼吸か、どんなふうに息を吸って吐いていたか。それが分からない。時計の針が俺を急かす。身体の熱が鬱陶しい。  駄目だと分かりつつも、俺は眼を開けてしまった。  天井が待っていた。埃が溜まる半透明のカバーの向こうに丸い蛍光灯。以上。  眠れない熱帯夜に迷い込んでしまった。  まずは身体の熱を覚まそうと、冷蔵庫から麦茶を引っぱりだして一気に空にした。シンクに飲み終わったコップを放置しようとして、こういうところを女子たちは見ているのだと思い直し、それを洗ってからベッドに戻った。     
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