インソムニア

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インソムニア

 我ながら、浮かれに浮かれまくっている。  明日の午前九時からのデートを控えた俺は有頂天だった。定刻になるやいなや、五時ダッシュを決め、車を飛ばして街で買いものを済ませたスーツ姿の俺は、でっかい紙袋を携えてアパート三階に帰宅した。荷物を玄関先に置き、皮靴と鞄をほっぽり出してネクタイを緩める。  そのまま部屋の電気を付けてベッドに背広を放り投げると、左手に下げていた紙袋を、大事に大事に机に置いた。中身は、明日のために新調したシャツやスラックスと、奮発した靴が入っていた。  デートなんて、いつぶりくらいだろうか。  仕事上の付き合いで飲みに行ったのを除けば、大学から付き合っていた彼女と社会人一年目に別れて以来だから、二年ぶりになる。  頬の筋肉が緩んでにやけそうになり、冷蔵庫から缶ビールをとって流し込む。だがむしろ気分は昂揚して浮かれるばかり。ホップの苦みの奥にある幸せを口一杯に味わう。  床に投げられたズボンやシャツを足で端に寄せ、開いたスペースに尻をつき、テレビのリモコンの電源を押しこんだ。明るくなった画面には『異例のロングラン、大絶賛上映中』の文字。     
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