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「近道したいからって、こんな野っ原、つっきろうとすることねぇだろ? 人のペースを考えないで、先に行ったのは悪かったよ」  空気に消え入りそうな声。  ……あれ?  この人って、こういう人だったっけ……?  つっと、右手首の上をトンボの羽が横ぎった。 「あっ!」  あたしはとっさに、中条の手をふりほどいた。 「妖精っ!」  声に出してから、「しまった」って思った。  どうしよう……。  この人、性格悪いから、クラス中に言いふらすに決まってる。  あたし、アホっ子でドンくさいの上に、「妖精を信じてるイタイ子」のレッテルまで貼られちゃう。  だけど、じゃあ、目の前にいるコレはなに?  赤紫色の花の先に、ツツジの雌しべみたいな足をのせて。バレリーナみたいな白いふんわり衣装をまとった小さな人。  歳はあたしと同じくらいかな。金髪を頭の上でくるりとまとめて。綿毛の髪飾りをつけて。青いつりあがり型の寄り目。つんとした鼻。小さなピンクのくちびる。  銀色のトンボの羽が、背中でパタパタとはばたいている。  現実……?  あたしは、そっと小さな人のほうに、人さし指をのばした。  さわれたら、現実……だよね?
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