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ぐ……怖い……。
一瞬あった「昔どこかで見たような感じ」が、あっという間にかき消える。
「ほら! さっさと来いっ !! もとの道にもどれっ!」
中条は言うだけ言うと、あたしから背を向けて、登山道にもどろうとする。
「あ……ちょ、ちょっと待ってっ!」
「……は?」
ふり返る石膏みたいなほお。左眉がピクついていて、すごく怖い。
「……だって……」
妖精を見たかもしれないのに……。
なんて言えない。
さすがのあたしでも、わかる。
「妖精がいる」って信じてること。「自分が妖精だ」って信じてることが、ふつうの六年生にとって、幼稚な考えだって。
「その羽を、きみ自身が信じられなくなってしまったら、きみの羽は抜けてしまうだろう」なんて言われなかったら、あたしだってもう、信じてなかったかもしれない。
「……ほら」
手を、大きな硬い手につかまれて、ひゃっと心臓がとびはねた。
「えっ!? ええっ!? 」
何度も見たけど、見まちがいじゃない。
あたしの右手を、ガッチリ包んでいるのは、中条の左手。
「葉っぱで足痛いのはわかるけど、花んとこ抜けるまでは、がまんして歩け」
早口で言って、中条が歩き出す。
あたしは、自分を引っぱっている人間の、高い位置にある大きな肩を見あげた。白いTシャツから、肩甲骨のラインがうかびあがってる。
もしかしてこの人、あたしのこと「足が痛くて動けない」って思った……?
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