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「や、やめろっ!」
横から、パシッと手をつかまれる。
「……え?」
見あげたら、中条の視線は、あたしが手をのばそうとしたほうに向いていた。
石膏みたいな横顔が、いつもよりも青白い。あたしの腕をつかむ硬い腕が、カタカタ小さく震えてる。
中条にも……見えてる……?
「……と、飛んでく」
かすれた声に、あたしはまた花のほうを見た。
さっきまでいた妖精がいない。
花畑の先に目をこらしたら、トンボの羽が見えた。赤紫色の花を一輪持って、空を遠ざかっていく。
「行っちゃうっ!」
あたしは大またで追いかけ出した。
「おい、和泉っ!」
背中で中条の足音が近づいてくる。
「追ってどうすんだよっ!? 」
「だってっ!」
縄みたいな花の茎に、足をとられて、何度も転びそうになる。
でもすぐに、顔を起こして、走りだす。
妖精はいるっ!
本当にいるんだっ!
心臓がピストンみたいにふくらんでしぼんで、ピンク色の希望を、胸に手に足に行きわたらせる。
やっぱり、あの記憶は、ただの夢じゃないっ!
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