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いつから自分が存在しているのかなんて考えたこともなかった。
ただ行きたいところに行って。たまにちょっと危険な目にあって。夜は遠くへ出かけて。
そういう毎日だった。
そんな彼女が花壇にいると、肩までの髪をツインテールにした女の子が近づいた。苺の髪飾りがよく似合っていた。
「わぁ、キレー」
そう声を上げた。
彼女は自慢げに自分が最も美しく見える角度に移動した。
「ねえ、ママ。この子飼っちゃダメ?」
女の子は、後ろにいたクリーム色のワンピースを着た女性に声を掛けた。
「だめよ。生き物は死んでしまうの。それに、病室では飼えないでしょ」
そう言って彼女――蝶々を見ながら母親は言った。
「えぇー。だったら舞葉、退院したい」
そう言って舞葉は身をよじった。
「もう少し入院していようね」
母親は、なだめるように言った。
舞葉はいつもそう言われてきたのか、大人しくなった。そして、花壇にしゃがみ込み、顔を蝶々に近づけた。
「こんにちは、蝶々さん。ねえ、お名前は?」
蝶々は羽を広げながら答えた。
「こんにちは、舞葉ちゃん。名前はないわ」
「きっと無いよね。私が付けてもいい?」
「ええ、どうぞ」
蝶々は了解の印に羽を1回羽ばたいた。
「綺麗な青色。それに白い点々がお星さまみたい。ねえ、お名前、夜空っていうにはどう?」
「綺麗な名前をありがとう」
そう言って夜空はまた1回羽ばたいた。
「夜空はなんていう種類なの?」
「私はツマムラサキって言う種類よ」
そう言って夜空は舞葉の膝の上に飛んだ。
舞葉は目を丸くした。口元には喜びが広がり、白かった頬がピンク色になった。
「お膝にとまってくれるなんて」
母親も同意した。
「本当に。良かったわね、舞葉」
「うん。ねぇ、夜空。舞葉と友達になろう?」
友達? 夜空は不思議な思いとくすぐったい感情が湧き上がった。今まで興味本位で網などで捕まえられそうになったり、邪魔ものとして追い払われたことはあっても友達と言われたことは初めてだった。
「ダメかな」
舞葉は夜空をじっと見つめた。
「……友達、ね」
夜空は同意した証に舞葉に近づいた。そして頭の周りを一周し、また膝の上にとまった。
「友達になってくれるんだ」
舞葉は嬉しそうに言った。そして膝に顔を近づけた。
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