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出会って数時間の少女の生き死にでなぜここまで心揺さぶられるのだろう。夜空は自問自答した。
初めて自分をのけ者にしなかったから? 初めて友達と言ってくれたから?
生き物は死んでしまう。これはあの子の母親が言った言葉だ。
人間は他の生き物と比べて長生きをする。自分の命なんて人間の何分の1の長さだろうか。
夜空は思った。あの親子の残された時間はどのくらいだろうと。
夜空はやみくもに飛び、気がつくと、いつも変化するときにとまっている木の頂点に来ていた。
空気は澄み、雲一つない漆黒の闇がそこにはあった。
草木は揺れ、辺りはしんと静まっていた。
夜空は頭上を見上げた。そこには穢れのない真っ白な月が浮かんでいた。
ああ。願えばいいのだ。夜空はにっこりと微笑んだ。
私と同じ名前の夜空よ、どうか舞葉に幸せを。
病室は消灯時間のため、電気が消された。
「今日はママがお泊まりの日だから嬉しい」
母親が泊まるのが嬉しく、すっかり機嫌の良くなった舞葉は体を起こし、はしゃいだ声で言った。
「だからって夜更かししちゃだめよ」
「うん」
舞葉は窓の外を見た。
「今日もパパ見つからないな」
「やっぱり郊外でも難しいかしら。おばあちゃん家なら見えるのにね」
暗い病室の窓からは外の建物の弱々しい明りがぽつぽつ見えるくらいだった。それはお世辞にも夜景とはいえず、この場所が都会でもない、田舎でもない、中途半端さを表しているようだった。
しばらく窓の外を眺めていると舞葉はあっと声を出した。
くっきりとした大きな流れ星がまるでスローモーションのように宙を裂いたのだった。
「ママ、見た? 今のパパかな」
「そうかもしれないわね」
舞葉はベッドに座ったまま飛び跳ねた。
「パパが会いに来てくれた。パパが会いに来てくれた」
舞葉はここ数ヶ月で一番の笑顔を見せた。母親は頭を撫でた。
「パパも会いに来てくれたことだし、もう寝ましょう?」
そう言って舞葉を寝かせ、布団を直した。
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