お願い馬鹿と呼ばないで

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帽子をかぶって家を出た。 当然だが、私以外の人のおでこに罵詈雑言が書いてあるはずもなく、 それでも、スマホのインカメラでみる私のおでこには「馬鹿」がいる。 夢なら覚めてくれ、1ヶ月断酒しますから、と都合よく神に祈る。 こんな時に限って会社の前で、密かにちょっといいな、と思っている同期に会ってしまうあたり、やはり私は何かを持っている。 「おはよう。帽子なんかかぶってどうしたの」 「ファッション的にもマナー的にも被りたくはないが、被らざるを得ない状況にあるからかぶるんだよ馬鹿が」 と言えるはずもなく、 蚊の鳴くような声で 「まあ...諸事情が...」 と答えた。 ああ今日は一段とかっこいい。 最近髪が伸びてますますかっこよくなった。 仲良くなりたい人ほど、緊張してしまって、素っ気なくしてしまう。 馬鹿だ。 そうだ、私は馬鹿だ。 コピーの部数をゼロを一個多く印刷してしまったり、 場を和ませようとふざけたら場が逆に沈んだり、 表情が硬くて影で仮面と言われていてもどうしようもできなくてますます硬くなったり、 チャリン! ほら今だって500円玉を落とした。 どうしてこんな時に。 恥ずかしい。 とっさにしゃがみ俯くと帽子が脱げた、と同時に拾おうとした同期のおでこと私のおでこの間に火花が散った。 あ、と声を出す間も無く、同期は 「半分、ね。馬ちゃん」と言った。 彼の白いおでこには「鹿」が上品に収まっていた。 私はあっけにとられたけれども、馬を隠すように前髪を整えながら、小さく頷いた。
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