お願い馬鹿と呼ばないで

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私がどうしようもなく馬鹿なのはわかっている。 でも、こんな仕打ちはひどいと思った。 朝、起きて鏡を見ると、おでこに立派な堂々とした明朝体で「馬鹿」と書いてあった。 昨日の酒が抜けきっていないせいで、パンパンに浮腫んだ顔に、黒々とした「馬鹿」の文字がこれでもかと公明正大に胸を張っておわしている。 誰がやったんだこんなくだらないこと。 昨日は仕事が終わってすぐに帰って家で缶ビールを3つ開けた。 一人暮らしだし、いくら書道を習っていたからと言っても、自分で自分の顔にこんなに達筆に「馬鹿」と書けるものか。 泥棒の置き土産?侵入者?夢遊病?キャトルミューティレーション? でもそんなことはどうでもいい。 仕事に行くまでに、この馬鹿げた「馬鹿」の文字を消さねばならない。 消えれば、誰がどんな目的でやったのであろうと不問にしてやろう。 クレンジングオイルをいつもの倍はプッシュして、おでこをこすりあげる。 上司の嫌味も某先輩のあの眼差しも昨日の失言もこすりあげて浮かせて落とすのだ。 天然成分由来の、無添加クレンジングオイルが皮膚の間で躍動する。
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