お願い馬鹿と呼ばないで

3/4
前へ
/4ページ
次へ
悲しいかな。 私は鏡の前で愕然とした。 落ちないのだ。 これはペンで書かれたものではない。 じゃあ何? とにかく、外部から手を加えられたものではないようだ。 悲しむ暇はない、出勤時間が迫っている。 7時48分?んなこたあわかってるよ。 前髪で隠そう。 悲しいかな、悲しいかな。 先日美容院に行った時に前髪を切ってしまえばよかった。 斜め半分に分けた前髪は「馬」を隠してくれるが「鹿」を隠してはくれない。 当然、逆に分けると「鹿」を隠してくれるが「馬」がお目見えする。 「馬」を選ぶか「鹿」を選ぶか、フィフティ・フィフティ。 選べるか馬鹿野郎。 そう、紛れもなく、私だ。 前髪をセンター分けにしてみたら? 「馬」の半分と、「鹿」の半分がお目見えする。 だめだあ、これは。 何事も、中途半端は良くない。 奥の手だ。前髪を切ってやる。 手先は意外と器用なんだ。 ジョキリと髪の断末魔を聞いた後に、私は膝から崩れ落ちた。 前髪の1本1本の隙間から、ゾートロープのように「馬鹿」が見える。 夏休みの工作よりひどい出来だった。
/4ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加