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「なあ、ジュリ」 「なあに?」  名前を呼ぶと、ジュリはいつも嬉しそうに返事をする。  太陽が昇っている時であろうが暗い空気のこの街で、聞こえる笑い声は何処かネジが飛んだように聞こえる。無理矢理にでも明るくしようとしている。  しかたないことだ。こんな世の中では。  もう何が原因だったかもわからなくなってしまいそうな戦争が、何年も続いている。紛争や内乱なら、難しいだろうが何処かに逃げれば済む話だ。しかしこの戦争は、世界中が戦場で、何処にも安全な場所が無くなっていた。少し前まで極東の島国が一番安全だったらしいが、すでにほとんどが海の下に沈んでしまっている。  そんななかでも俺達は、こうして集まり、ひっそりと平穏を手に入れようとしていた。  闘っている連中はきっと大義を掲げて敵を葬っている。感情のスイッチをオフにして、殺戮を続けている。その掲げた大きな旗の後ろに続いているものがほとんどいないということにも気づかずに。  すれ違う顔はどれも下を向いて、不安を隠し切れていない。騒いでいる連中に一瞥をくれるが、込められているのは、羨望に近い。こんな世界では、狂ったように笑うか、腐って下を向くかのどちらかが似合ってしまう。希望を捨てずにいる方が少数派だ。  ジュリの以上に明るいやつは、この街にはいない。俺だって、本来ならどちら側かについているはずだ。ジュリに光を分けてもらっているんだ。ジュリは、底抜けに明るいんだ。  こんな時代だっていうのに、俺と居られて幸せだとか、きっとなんとかなるよとか、ずっと笑顔で、幸せを振りまいている。ジュリに救われているのは、俺だけではないはずだ。 「ジュリのことは好きだし、趣味にどうこう言おうとは思わないが、流石に歩きながらはやめないか?」  ジュリの趣味は詩を書くこと。こんな時代によくそんなことが出来るなと感心する。  書く詩はどれも、おそらく文学的に見たり、プロが見たりすれば、何もなっていないのかもしれない。俺も詩の事は何も分からないが、ジュリの書く詩はただ思っている事を書いているだけに見える。そういうものなのだろうか、詩とは。詩的という言葉が存在するように、独特の空気を感じるものではないのか。
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