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「あーちゃんとデート。あーちゃんとデート」
「や、静かにしてもらっていいか? 一応張り込みなのよ?」
探偵娘と助手は黒猫を連れてとあるアパートの前にやってきていた。
その目的は。
「ん。帰ってきたみたいだな。事前調査通り」
つい、今しがた帰ってきた男に助手が目をやる。
金髪を宙に逆立てている髪型に耳には無数のピアス。サングラス。なかなかにパンチの効いた格好である。そんな男が、疲れたように肩を落としながら、アパートの自分の一室へと入って行った。
「すごーい。あーちゃん、探偵みたい!」
「探偵はお前で、オレは助手な」
そんな二人の背後で。
殺気が膨れ上がる。
「あいつだ」
「あいつが来たんだ」
「あいつが来て、あの人が死んだんだ」
「あいつだ」
「あいつが何かをしたんだ」
「あいつだ」
「呪ってやる」
「殺してやる」
「食ってやる」
「祟ってやる」
「あいつだ」
「あいつが」
「あいつで」
「あいつだ」
漏れ出る怨嗟。
口からは煙が。
頭からは耳が。
尻からは尻尾が。
目は黄金色になり、瞳は縦になり。
指からは爪が。
口の端からは牙が。
そして。
目尻からは涙が。
そんな黒猫の変貌に、しかし二人は怯えない。
切なそうに見る・
悲しそうに見る。
ずれている探偵娘と、ずれている助手は、ずれているが故に、黒猫に対して恐怖を覚えない。それどころか。
「あーちゃん。お願いね」
「任せろ。大丈夫さ」
救ってあげよう、と。
掬ってあげよう、と。
壊れぬように。
零れ落ちぬように。
そう、言い合った。
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