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 「えー、まずは、斉藤さん。こちらにいるコートの少女は、あなたにも先ほど見てもらいましたが、猫又という妖怪です。人の服を被ることで人に化ける能力があるそうです。今はうちの奴に化けています。その前提をどうかご理解いただきますよう」  「事の発端から話しますと、このネコがうちの事務所を訪ねてきたところから始まります」  「申し遅れました。僕の名前は相田一樹。相愛探偵事務所という事務所で探偵の助手として働いています。こちらが愛川珠。探偵です」  「さて、今日の朝、出勤してみると、事務所にはネコがいました。このネコはタマのコートを自分に被せると、タマのカッコになってこう言ってきました。一週間前に起こった女性の死亡事件の犯人を捜し出してほしい、と」  「そうです。一週間前に死亡した女性。あなたの祖母である斉藤文子さんについての、調査の依頼です」  「ネコは見ていました。斉藤文子さんが亡くなる少し前。あなたがふみ子さんの家に訪ねてきていたことを」  「そしてそのすぐ後に、斉藤文子さんは『物憂げ』になり、『何かを心配し』、『泣いて』、お亡くなりになりました。この様子をこのネコは見ていたのです。そして、誤解をしてしまいました」  「まず、結論の方から言っちゃいます。黒猫さん。斉藤文子さんは殺害されたのではありません。斉藤文子さんの死因は急性心不全。つまり、病死です」  「あなたは、事務所に来た時にこう言いました。『死の間際、物憂げで、心配しているようで、泣いていた』、と。どうしてそう思ったのですか? 『急にしゃがみこんで』『苦しげな声をあげていた』のではないですか? それをあなたは、勘違いした。苦しみのうめき声を『泣き声』と勘違いした」  「そしてその勘違いのまま、あなたは、恨んだ。恨みのまま、その一心で、猫又となった。一人と一匹。ずっと家の中にいたあなたは、病というものを知らなかった。死ぬには外的要因が必要だと決めつけた。黒猫さん。命は、ある日突然消えるものなんですよ。あなたはそれを、知らなかった」  「猫又は数十年を生きたネコか、強い想いを持ったネコが変じるものだそうです」  「あなたはまだ若い個体ですよね?」  「あなたは、文子さんに対する想念だけで、猫又へと変じてしまった」  「しかし、あなたのその強い想いは、間違いから生まれたものです。それを叶えてはいけません」
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