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 「………そんな」  静かな場に、黒猫の声だけが響く。  「病気? 病気って何だ? こやつは、じゃあ、悪くないのか? じゃあ、なぜ死んだ? どうすれば、また会える? もう、会えないのか?」  そんな虚ろな自問に、探偵娘が思わず黒猫を抱き寄せようとして、助手に止められた。  まだ、終わってない。  「俺が、悪かったんだ」  ポツリと、男が呟くのを聞いた黒猫が、顔をあげる。  表情に敵意を覗かせながらあげた顔は、しかし、固まった。  「婆ちゃんはもう年だった。でも、そんなことを気にも留めなかった。遠いからって理由で、ほとんど帰省もしなかった。もっと近くで見てあげていられれば。今回のことだってすぐに救急車を呼べばもしかしたら。父親も母親も早くに死んで、婆ちゃんが俺を育ててくれてたのに、そんな婆ちゃんを置いて、俺はとっとと家を出た。すまなかった。お前の婆ちゃんでもあったんだよな。すまなかった、すまなかった、すまなかっ―――」  そこから先は、涙で聞こえなくなった。  黒猫は困惑する。  なぜ、自分の目からも、涙があふれるのだろうか、と。  「ネコさんや。この人な。最近、仕事が休みの日は出歩いてるんだってさ。なんでもさ。最近亡くなった身内が飼っていたネコが行方不明なんだってさ。見つけて、引き取って、育てたいんだってさ。どう思う?」  そんな助手のにっかりと笑った顔に、なぜか黒猫はたまらない気持になった。  胸の内で燻っていた強い衝動が、弾け飛ぶように、その勢いに任せて、黒猫は男に駆け寄り、そして泣いた。  同じ者を失った喪失感を埋めるように。  思い違いで、大切なものを失ってしまわなかった安心感に包まれながら。  ただただ、泣いた。
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