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【01】
アパートの暗い階段は処刑台に見えた。
野口彼方[のぐち かなた]は
一歩一歩踏みしめる様にそれを登っている。
三階にはバイトの同僚である
一条美右[いちじょう みう]が住んでいるのだ。
美右は色白で小柄な女の子。
髪の長さはセミロング程度で
頭にはリボンの髪飾りを付け、
前髪の分け目は右側。
美右とは一月前から付き合い始めた。
バイト先のコンビニで出逢った美右は
清楚で大人しい、物静かな女の子だ。
あだ名は“箱入り娘”。
その由来には性格面もあるが
何より秘密の多い事にあった。
彼女は私生活をあまり明かさなかった。
飲み会にも来ない事が多い上に
もし参加したとしても
必ず一次会で帰ってしまう。
誰しもが「あの娘は箱入り娘よね」と揶揄した。
美右と初めてちゃんと喋ったのはバイト中だった。
「キャッ」という小さな悲鳴に駆けつけると
美右がカウンターの中でしゃがんでいた。
聞いてみると、
揚げ物を揚げる器具で火傷してしまったそうだ。
見ると、白い右肘には
黒い線の様な跡が残っている。
その場には二人しか居らず、
彼方がその処置をした。
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