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亡くなって病院のベットで横たわるあいつを見た時、わしは体の半分を落としたような、そんな気持ちがした。
あいつは、いつも当たり前にそばに居て、当たり前に話しかけてきて、当たり前に笑ってくれると思っていた。
――そう思い込んでいた。
魂のないあいつの顔を見て、初めてそれが当たり前でないことを知った。
……わしは、もっと言いたいことがあった。
ただくだらないことで笑ってほしかった。
お前のくだらない話をもっと聞いていたかった。
お前の飯をもっと食べたかった。
お前ともっといろんなところに出かけたかった。
もっと、わしのそばに居てほしい。
もっとわしに笑顔を見せてほしい。
もっと、もっと――……。
でも、もう遅い。
今さら何を言っても、あいつは帰ってこない。
あいつは、もうどこにも居ない。
「――――お前じゃなく、わしが死ねばよかった」
その時、電話の音が大きくなった。
彼はびくりと肩を弾ませると、腰を上げ受話器を取った。
「……もしもし?」
「あ、父さん? 俺」
そう言った後、声の主は『あ、間違えた』と言って、こう続けた。
「浩一です。好きなおかずはチキン南蛮です」
「なんだ、そりゃ?」
父の突っ込みに、息子の浩一は可笑しそうに言う。
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