半身

3/4
前へ
/4ページ
次へ
亡くなって病院のベットで横たわるあいつを見た時、わしは体の半分を落としたような、そんな気持ちがした。 あいつは、いつも当たり前にそばに居て、当たり前に話しかけてきて、当たり前に笑ってくれると思っていた。 ――そう思い込んでいた。 魂のないあいつの顔を見て、初めてそれが当たり前でないことを知った。 ……わしは、もっと言いたいことがあった。 ただくだらないことで笑ってほしかった。 お前のくだらない話をもっと聞いていたかった。 お前の飯をもっと食べたかった。 お前ともっといろんなところに出かけたかった。 もっと、わしのそばに居てほしい。 もっとわしに笑顔を見せてほしい。 もっと、もっと――……。 でも、もう遅い。 今さら何を言っても、あいつは帰ってこない。 あいつは、もうどこにも居ない。 「――――お前じゃなく、わしが死ねばよかった」 その時、電話の音が大きくなった。 彼はびくりと肩を弾ませると、腰を上げ受話器を取った。 「……もしもし?」 「あ、父さん? 俺」 そう言った後、声の主は『あ、間違えた』と言って、こう続けた。 「浩一です。好きなおかずはチキン南蛮です」 「なんだ、そりゃ?」 父の突っ込みに、息子の浩一は可笑しそうに言う。
/4ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加