雪の中で待つ君を

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 電車の中で走ることこそしなかったものの、そわそわと足踏みして辿り着いたいつもの駅で、改札を抜けて走りついたいつもの公園。  しんしんと降る雪が辺りをうっすらと白く染めているのに気づいて、思わず、うわ、と感嘆の息が漏れたのも束の間。  いつものベンチに見つけた司は傘もささずにぼんやりと座っていて、舞う雪を纏って白くなっている。 「──っとにもう」  やっぱり、とズンズン歩いていくのに、司は一向に反応せずに。  ただぼんやりと、ガラス玉みたいな──恐いくらいに透き通った目で、どこか遠くを見つめていて。  ──恐く、なった。  司がまるで、手が届かないどこかへ行ってしまいそうな恐怖。 「司!」  それをはね除けるかのようにわざと大きな声で呼んで駆け寄ったのに、微動だにしない司に気持ちばかりが焦る。 「ちょっと司! 何してんのこんな寒いのに!」 「…………──あぁ、たきがわ」 「──っ」  ぼんやりしたままの透明な瞳がオレを捉えた後に紡がれたのは、あの頃の呼び名だ。  初めて体を繋げたあの日以来、ずっと颯真と呼んでくれていたはずの唇が、名字を呟いたことにおののきながら。  震えそうになった手のひらで、それでもめげずに司の肩に積もった雪を払う。 「風邪引くよ! こんなとこで」 「ん」  反応の薄い司の隣。冷えきったベンチに、敢えて乱暴にドカッと座って。  ギクリと肩を揺らした司が、呆然とこっちを向いた。 「…………たきがわ?」 「──…………そう。何してんの? こんなとこで。風邪引いちゃうよ?」 「……たきがわ……」  ぼんやりと名前を呟くだけの司の、冷えきった頬を両手で挟んで。 「こんな冷えきって、何してんの」  肉の薄い司の頬を、無理やりムニムニと動かしながら温めてやる。
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