Happy Sweet Valentine

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 颯真のおかげで風邪を引くこともなく迎えた週明け。朝のワイドショーでやたらとチョコが映るなと思っていたら、次の水曜日がバレンタインデーだと遅ればせながらに気がついた。  そういえば、デパートや果ては小さなスーパーでさえ、バレンタインを彩るハート型のポップで溢れていたなと思い出す。 (バレンタインかぁ……)  もちろん、颯真と付き合っているとはいえ自分も男なのだから、贈るよりは貰う側な気もするのだけれど。  普段、心配ばかりかけている大事な恋人に、お礼の意味も込めてチョコを贈るというのもありかもしれないなぁ、なんて。  寝起きの頭でぼんやりと思い浮かべていた時には、まさかこんな混雑を予想していたはずもなかった。 「……ナニコレ」  設けられた特設会場に群がる、どこから集まったのかと思うほどたくさんの殺気だった女性達。  ちらほら見える彼氏または夫であろう男性陣は、壁にもたれてげんなりしている。  これ以上入る隙間もなさそうな店と店の間を、押し合いへし合いかき分けていくおばちゃんと、ぶつかられて眉を寄せているお姉さんと。  戦場と紛う特設会場は、おいそれと男の自分が乗り込んでいける場所ではないようで。 「……これは無理」  人波に飛び込む前にぐったりと疲れ切って会場に背を向ける。 (もうちょっとお手軽なやつ……)  しょんぼりと心の中で呟いて、下りのエスカレーターに足を乗せた。  結局、バレンタイン当日は何もできずに。  翌週になってから、思い切ってチョコレートの専門店に足を向けて。  オロオロと店内をうろつく自分に気付いて営業スマイル全開で話しかけてくれる店員さんと、しどろもどろで受け答えしたのに。  早口で滔々と商品の説明をされる内になんだかいたたまれないような気持ちになって、結局逃げ帰ってきてしまった。  しょんぼりと肩を落として入ったコンビニで、目に入った小粒のばら売りチョコ。  これならなんとか、と手を伸ばしてレジへ。  味も素っ気もないコンビニのレジ袋をぶら下げて、とぼとぼ待ち合わせ場所に向かう。 「司」  にっこりと笑ってぶんぶん手を振る颯真の顔が見えたら、情けなさで鼻の奥がツンとなった。 *****
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