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こっちへ向かって歩いてきていた司が歩く速度を落としたかと思ったら、やがてピタリと足を止めて俯くのを見て慌てて駆け寄る。
「どしたの? ──って、なんで!? なんで泣いてんの!?」
わたわたと声をかけたら、ふぐ、と変な音を出した司が、ぐぃ、とコンビニの袋を押しつけてきた。
「? 何、くれるの?」
こく、と俯いたまま頷いた司の頭をぽふぽふ撫でてから、開けるねと告げて袋の中を見れば
「あ、チロル」
馴染み深い小粒のチョコレートが、おそらく店に置いてあった全種類取り揃っていて。
「どしたのこれ、ありがと?」
「……バレン、タイン……」
「へ?」
「これしか、買えなかった」
「つかさ……」
「いつも……そうまは、……オレにいっぱい、色んなことしてくれるのに……バレンタインくらい、オレもなんか、したいなって……思ったのに、こんなん……」
ふぎゅ、と更に変な音を出した司の。
台詞のいじらしさに唇が緩む。
「ありがと」
「……」
「うれしい、すごく」
「でも、ちろる……」
「なんだって嬉しいよ。だって司が、一生懸命考えてくれたんだから」
「ちがっ……ホントはもっと……」
「ものがどうとかじゃなくて。オレのこと考えてくれたってことが、嬉しいんだよ」
「……」
納得のいってなさそうな、ほんの少し悔しげな顔をする司の頭をわしゃわしゃと撫でて、泣き顔を覗き込む。
「ありがと。大事に食べるね」
「……ん」
小さな声で呟いて頷いた司の唇に、触れたい欲求をどうにか抑えつけた後。
「…………じゃあ、オレも」
「へ?」
「バレンタインてことにしよっかな」
「なに?」
キョトンとする司の手を引いて、とりあえずいつものベンチに座る。
「これ」
「………………かぎ?」
「オレン家の鍵」
「────え?」
司の手を取って手のひらに載せたのは、あの雪の日に思いついた押しつけがましいプレゼントだ。
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