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復讐劇
ここの人達は実に、『生きる』ということを実感させてくれる。
ただただ御満悦に生きる中央とは違い、苦悩し、知恵を絞り、喜怒哀楽に長けた、人類と呼ぶべき人類であり、僕は一緒に行動するうちにその人達を生かしたいと思うようになった。
* * * *
決行当日、まだ薄暗い未明の間に僕は路上で見掛けた掘削機を修理してもらって、坑道の埋められた穴を掘り進めている。
この穴を百メートルほど掘り進めれば、坑道は開けるはずだ。
僕の記憶の中の、過去の坑道見取図が鮮明に蘇り、どこをどう掘っており、どう埋められたかを想像させる。
掘削機は懸命に岩を砕き、後方に弾き飛ばしながら前に進み続けた。
ガリガリと乾いた音を鳴らし、フロントガラスには砕けた岩の破片がガンガンとぶつかり激しく音をたてている。
「開けてきたぜ、比山博士」
重機技士は僕を『比山博士』と呼ぶのだが、余り人と話すことのなかった僕は、この固有名詞に少なからず喜びを覚えている。
「ありがとうございます。ここからは僕一人で行きます」
「いいのかぃ?手伝うこともできるんだが」
「大丈夫です。お姉さんに宜しく言っておいてください。あと、博士なんて大それたものではないですよ」
「了解だ、比山先生」
そう告げて後方に下がっていく掘削機を見送る。
「全く調子のいい人だよ」
本当に調子のいい、愛すべき人達だ。
僕は彼らの為にも、この根底を成す人工知能を破壊しなくては。
覚悟は決まっていたが、それを確固たるものにする十分な理由だった。
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