モウソウカノジョ。

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「それで……どうかな?」  この子の不安はまだ消えてはいない。俺がちゃんとした返事を返さないと。  普通に考えて断るなんてありえない。だけど俺には決められない。  頭によぎるのは彼女の姿。  彼女ならきっと、この子の告白を受け入れろというだろう。  でも、俺にはまだ――。  こんな優柔不断ならいっそ断ってしまった方がこの子のためになる。  そもそも俺と付き合ったところでいいことなんて何もない。がっかりするだけだ。  答えを決めて俺が口を開く。とそのとき、 「待ってっ」  返事を止められた。  あの子は若干体を震わせながらつづけた。 「やっぱり待って。返事はまた今度でいいや」 「え、なんで……?」  急にそんなことを言う。  俺はすかさず聞き返す。 「だって君、なんか迷ってるみたいだったから。いま返事を聞いたらきっと私は……」  今の俺には決められないから。  その方がこの子に失礼にならないと思ったから。  だったらと、そう考えていた。 「返事は後でいいから。もう少し考えてみて」 「いや、でも」 「それじゃ、私もう行くね」  苦し紛れな笑顔を作ると、あの子は屋上を飛び出していった。   考えたところで何も変わらない。  こんな俺がいくら考えたところで、どうしたらいいかなんてわからない。  前に進むにはいったい、どうしたらいいのだろう。 「それで、あんたは返事もできずにのこのこと戻ってきたわけ?」  誰もいない教室で、彼女は待っていた。  俺が戻るとすぐに色々と説明させられた。 「全く、情けないわね。そんなんだから今まで彼女の一人もいないのよ」 「仕方ないだろ。それに、あの子は俺にはもったいない」  意味もなく強がってみる。 「そんなの関係ないわ。あの子があんたに惚れてるんだから、あんたはそれに素直に答えればいいのよ」 「それは……そうだけど」  彼女はいつも正しい。俺が間違えそうになると教えてくれる。  だけど、今回は何が正しくて何が間違いなのかが俺にはわからない。
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