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だから俺は前に進めない。
普通ならあの子を受け入れるのが正解なんだろうけど、だからと言って彼女をそんなあっさりと切り捨てることは俺にはできない。
今までずっと支えてくれた彼女。
それをあっさり切り捨てるなんて薄情な選択、俺にはできない。
「ほんと全く、仕方ないわね」
少しあきれたように笑う彼女。
それから、俺の体に両手をまわして優しく抱きしめる。
「私はもう十分幸せなの。これ以上はないわ。でもね、だからこそ、あんたにもこれ以上は何もあげられないの。これが私の限界」
「十分だよ。俺だってちゃんと幸せだ」
「ううん、それは嘘。だって時々、すごく寂しそうな顔するんだもん。わかるよ」
彼女には何でもお見通しだ。
俺のことは何でも知っている。
だから嘘だってすぐにばれる。
「あんたはもう大丈夫よ。ちゃんと前を向いて、顔を上げて、あの子を見てあげて。もうあんたにあたしは必要ないから」
そんなことない。俺にはまだお前が必要だ。
「大丈夫よ。あたしが保証してあげる」
お前にはまだいっぱい返したいことがあるんだ。
「私はもう十分もらったよ。だから満足なの」
それでも……。
「私はもう十分、幸せだったよ。次はあんたの番。だからもうお別れしないと。ちょうどいいじゃない」
彼女が優しく微笑む。
「俺だって幸せだった。俺はお前がいたから……」
「でも、このままじゃダメなことはもうわかってるでしょ? 私じゃあんたの心を全部埋めてあげることはきないの。それはあんたがよくわかってるはずでしょ?」
「だけど……」
「あの子のこと嫌い?」
「違うよ。そういうわけじゃない」
「だよね。あのときまんざらでもなさそうだったし」
そういってニヤニヤとこちらを見つめる。
「俺はお前をどうしたらいいんだよ……。今さら手放すなんてできないだろ……」
「うん、まぁ、あんたならそういうと思ってた。馬鹿みたいに優しくてお人好し。それがあんたのいいところなんだけどね」
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