モウソウカノジョ。

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「あっ」  窓の外をちらりと見た彼女が、何か見つけたように声を上げる。 「あれ、あの子じゃない? まだいたんだ」 「あ、ほんとだ」  ここは二階で、窓からは校門が見える位置にある。  その下を、玄関から出たあの子が歩いている。 「んー、せっかくだし行って来たら?」 「え、いま?」  急にそんなことを言い出す彼女。 「そう、今。ほら、善は急げっていうし」 「ちょっと急すぎない?」 「大丈夫よ。今のあんた見たら、あの子もわかってくれるって」 「いや、まだ心の準備が。それにお前のことだって……」  そう、ここであの子のとこに行くということは、彼女とはここでお別れということ。  それもなんか名残惜しい。それに、ちょっと寂しい。 「やっぱ、もう少し後でもいいんじゃないか。明日とかでも全然遅くは……」 「何言ってんのよ! そんなんだからあんたはいつまでたっても成長しないし、あたしだって苦労するんだから」  はい、すいません。 「ほら、いつまでも引きずらない。わかったらさっさと行く」 「はいはい、わかったよ」  しぶしぶと返事をする。 「おっと、そうだ。最後にいっておきたいことがあった」  俺はわざとらしくそういう。 「な、なによ?」  彼女は訝し気に俺を見る。  俺はそんなことはお構いなく言ってやった。 「俺は今でもお前のことが好きだ。そしてこれからも、それは変わらないから」  途端に彼女の顔が赤く染まる。  が、すぐに取り繕って強がって見せる。 「ふ、ふんっ。バカじゃないの。いいから早く行っちゃいなさい」  本当に、こういうとこは可愛い。  名残惜しさを何とか捨てて、俺はようやく決意する。 「ありがとう。俺、行ってくるよ」  彼女は自分が作り出した妄想に過ぎない。だけど、俺の中で彼女の存在は確かにあった。  何よりかけがえのない存在だった。それは今も変わらない。
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