モウソウカノジョ。

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「……ふんっ。あっそ」 「あっ……」  彼女はそのまま先に行ってしまった。 「ん、どうかしたの?」  つい声が漏れる。 「いや、なんでもないよ」 「? そうなの?」  クラスメイトの子は何も気づいていない。  さっきまで俺の隣に彼女がいたことを、この子は気づいていない。  正確には、見えていなかったのだ。  彼女は誰にも見えない。俺にしか見えない。  しかしそれは至極当たり前のことで、別にこの子がおかしいわけじゃない。  そもそも彼女なんて実際には存在してないんだ。  なぜなら彼女は、俺が作り上げたただの幻でしかないのだから。    いつからだっただろう。  気づけば彼女はそこにいた。  違和感なく俺の日常に溶け込んでいた。  俺は何の不信感もなくそれを受け入れた。  彼女は俺のことが好きで、俺も彼女のことが好きだった。  なんか、出来過ぎている。  でも、それもそうか。  彼女はただの幻で、俺の妄想でしかないのだから。  彼女といると楽しいけど、でも少しだけ、寂しさを感じた。  昼休みに入った。  購買で昼ご飯を素早く買うと、人気のない場所を探す。 「屋上かな……」  なんとなく、その方に足を運ばせる。  普段は閉鎖されている屋上。扉にはいつも鍵がかかっている。  だが、実は鍵が壊れていて、コツさえつかめば誰でも簡単に扉を開けられる。隠れた穴場だ。  その扉を慣れた手つきで開ける。 「あ、手汚れちゃったよ……。まぁいっか」
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