大須なもなもイレギュラーズアナザーストーリー

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 ――彼女と初めて出会ったのは、信吾が中学生の頃だった。  その日は生憎の雨。部活動が早めに上がり家に帰ると古着屋の店番を頼まれた。信吾の家は古着屋で、こんなことはよくある。信吾はこの日も快く引き受けた。  信吾は小さいころからばかをする子だったが、なんやかんや店番だけは大人しくできる質だった。信吾は小さいころからこの店番が好きなのだ。しかし、家族が子供一人にこんなことを頼むのは、ほんの少し場所を離れたいときだ。いつこの時間に終わりが告げられるか分からない。信吾は頼まれる度に、このほんの束の間の自分の王国をかみしめていた。  そのうち、店の前に1人の女性が止(とど)まった。大人びた後ろ姿だったので客人だと思ったが、彼女は立ち尽くしたまま中に入ろうとしない。それどころか、店に背を向けている。  彼女は、降り続く雨を見上げる――これは、雨宿りに店の前に立ち寄ったといったところか。  信吾には、彼女がとても不思議だった。  今日は雨が朝から降っていて、突然降り出した、なんてことはなかった。それなのに、彼女は傘も差さず、ワイシャツ一枚にボロボロのジーンズ。外をいつでも駆け回るような子供ならともかく、彼女がそんな姿で服をびしょびしょにして出歩くなんて正気の沙汰とは思えなかった。  信吾は外の様子をちらちらと確認しながら店の奥に入った。
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