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信吾が店の奥から取り出したのは「処分用」と張り紙がされている複数のダンボール。先日、父親が商品を廃棄するためにまとめたものだ。信吾はダンボールを開け、もう捨てられかけている服をあさり始めた。雑な扱いをされていた服たちは、女ものも男ものも混在していて、サイズもいちいち確認しなければならなかった。
商品にならずともまだ着ることのできる服を選定し、ありったけの服を抱えて店の外に出た。
外にあったベンチに服をそっと置き、女性に声をかける。
「お姉さん、こんにちは」
彼女は肩を上げてびくつかせ、困った様子で笑いかけてきた。
彼女が「ごめんなさいね」と分が悪そうに立ち去ろうとするので、信吾は少し大きめのTシャツをつかんで彼女に勢いよく被せた。
「お姉さん、小柄なんだね」
信吾はそう言いながら、次々に他の服も重ねていく。彼女は何が起こったのかとポカーンとしていた。それからしばらく彼女はやられるがままに服を着ていたが、ハッとした途端、信吾の手首をつかんだ。
「やめて」
つかんだその手は力強かったのに、その声はあまりにもか細かった。
「こんなことされても、困るわ」
彼女は中学生相手に反抗的な目を向けていた。
先程から彼女はこんな目で、天をずっと呪っていたのかもしれない。
「こっちだって困ってるさ。マネキンもそんな薄着にさせない」
信吾はまた服を着せ始めた。夏服、冬服……今日の天気が天気ということもあって、いくらでも着せた。
「もう捨てるやつだから、臭いとか気になるかもだけど」
それから、ズボンやスカートはビニル袋の中に入れて渡した。
ここまでくると、彼女も抵抗する意欲を失っていた。
そして、信吾たちはいつの間にか目が合わなくなっていた。
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