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今頃、信吾は怒っているかもしれない。けれど、せなに呼び止められたと弁解すれば、(女ったらしの信吾なら)きっと納得してくれるはずだ。もしかしたら、最近、2人の間で衝突でもあったのかもしれないし。
世の中、正論をやたらに唱えられるばかりでは鬱憤が募ることもある。2人のことだから正論のぶつかり合いになって、せなの意見が通らなかったのかもしれない。そしたらどうしたって敗れた方は不満が残る。
しかし、案外、信吾とは全く関係ないことの八つ当たりをしている可能性もある。そうだったら信吾もとんだ被害者だ。けれども、せなにとって信吾相手ならそれがありなのだ。
一通り話し終わったせなはふてくされた顔でこちらを見てきた。
「今から会うんだよね」
「ま、まあ、DVD鑑賞する約束はしてるけど……」
せなは大輔の分の勘定を手に取って、「もう行っていいよ」と大輔を手で追い払った。早くに父親を亡くし、お金には苦労しているのに――いつものけちけちとしたせなにはない態度だ。もしかしたら言い過ぎたと少し反省しているのかもしれない。
けれども、こんなことは今に始まったことではない。今までにも何度か大輔はこのように捕まっている。信吾の愚痴を大輔に話す、それもまたせなにとってありなのだろう。
もしかしたらきっぱりとした性格の綾火が言ったなら気分を害する人がいるかもしれないが、ゆるふわなせなが愚痴をこぼしても全く悪意を感じない。そのせいかせながいくらいっても今まで不快に思ったことは一度もなかった。せなも大輔のそんな思いを見越しているのだろうか。お互い、長い付き合いになったものだ。
「またみんなで遊びに行こう」
「……アルバイトがなかったら!」
大輔はクスッと笑ってその場を後にした。
せなには信吾と絶交する気なんて毛頭ないようだった。
大輔がやっとのことで信吾のところに遊びに行ったら、信吾は店の前で客人と立ち話をしていた。相手は男女2人組。女性は妊婦のよう。お腹の膨らみからして出産間近に見える。どちらも大輔の知らない客人だった。
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