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そんな2人の間から、ちょこんと女の子が顔を出した。妊婦が手前にいたので気づかなかったが、2人の間に大輔の腰辺りにも満たない小さな女の子がいた。
きっとあの3人は家族で、近いうちに新しい家族が生まれるのだろう。
2人は信吾と頭を下げ合うと、そのまま立ち去って行った。
信吾と目が合ったのは、その家族が大分離れてからだった。
「おお、大輔。おまえ、来るの遅いよ」
信吾はうなだれながら大輔に近寄ってくる。「こんな時間から観たら途中で腹が減っちゃう」と信吾は神妙な顔をして、何を間食しようかと真剣にお菓子の候補を羅列し始めた。
大輔は、話を遮るようにそんな信吾に声をかけた。
「さっきの人は?」
「ああ、隣町の宮原さん。うちの常連さんなんだ。家族みんなで着てくれて、本当によくしてもらってるんだ。いつもは奥さんだけだけど今日は天気も良かったからって家族で来てくれたんだ」
なぜこんなにも確信を持ってしまうのだろう。今の大輔には信吾の話とせなの話に繋がりがあるようにしか思えなかった。せなの話を聞いていた時には何が楽しくて信吾の女性関係を聞かされているんだろうと軽く流していたつもりだったが、意外にも自分はその話に聞き耳を立てていたようだった。皮肉なものだ。こんなの自覚したって劣等感ばかりが生まれる。
大輔はそんな自分にあきれながらも、信吾の顔色をうかがいながらそっと呟く。
「若そうな子持ちの夫婦だったな」
信吾の動きが一瞬止まった。信吾のその反応があからさますぎて、思わぬ事態に自分でも面食らった。
しかし、あの客人ははじめからおかしかったのだ。2人はまだ若々しくて、歩けるような子供のいる夫婦とは到底思えなかった。それに、自分たちよりも年上に見えたけれど、ここの常連になるには早すぎるような気がした。「隣町」というのも何だか引っかかっていた。
「おまえ、そんなに鋭いやつだったっけ」
信吾は苦笑しながら大輔を家の中に入れた。
信吾は自分の部屋に大輔を招き入れると、テーブルの上にジュースとポップコーンを設置した。大輔が立ったままでいると、信吾はちぐはぐしながら座りこむ。ここまでくるのにも口数が少なく、何だかぎこちなさそうだ。
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