その青と、あの青と

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卒業式を終えた一人の少女が帰りの電車で降り立ったのは、自宅の最寄り駅ではなかった。 廃れた町の廃れた駅で途中下車してまで、地元民でさえほぼ知らないような展望スポットに立ち寄ったのは、卒業の余韻に浸って黄昏れようとしているのではない。れっきとした理由があった。 崖の上から見える風景は、余計な人工物がほとんどない、ありのままの姿をした自然だった。 空は澄んだ薄い水色で、海は暗く重い青色。 腰の高さの鉄柵には「この先危険、立入禁止」と色褪せた看板が掛けられている。 この柵を越えて空に近づこうと言ったって、飛べるのはほんの一瞬。すぐ重力に負けて、水の底へと引き摺り込まれてしまうだろう。 少女は、中学3年間ですっかり使い古した鞄とつい数時間前に貰った卒業証書の筒を、荒れた地面に置いた。
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